病気と手術 =やました(甲状腺・副甲状腺)クリニック=

バセドウ病

はじめに
 バセドウ病とは、甲状腺で必要量より多く甲状腺ホルモンを産生することにより、全身の新陳代謝を活発にさせ、動悸(ドキドキする)、体重減少、手の震えなど、全身に様々な症状が生じてくる病気です。そのままにしておくとしだいに身体が弱ってきますので、適切な治療が必要です。バセドウ病の治療には、「薬物治療」「放射性ヨ-ド療法」「手術」の3種類があります。しかしバセドウ病を完治させる決定的な治療法ではなく、それぞれ一長一短があります。患者さんに適した治療法の選択や長期の治療あるいは治療後の経過観察が必要なので、甲状腺を専門としている医師にかかることをお勧めいたします。尚、手術を受ける場合は、バセドウ病に精通した内分泌外科医に任せるべきです。各地の専門医あるいは甲状腺学会専門医を参照してください。

薬による治療
 バセドウ病の診断がつけば、まず抗甲状腺剤(甲状腺ホルモンの合成を抑える薬。メルカゾール、チウラジール、プロパジールがあります)を内服します。手術や放射性ヨード治療がよいと判断しても、まずは甲状腺ホルモンを下げる必要があります。症状や血液中の甲状腺ホルモンの値にもよりますが、それらの薬を1日3~6錠から始め、血液中の甲状腺ホルモン値が正常化すれば1日1~3錠に減量してその量をしばらく続けます。薬の治療はどこの施設でも外来治療として可能ですが、通常は1年から数年、あるいはずっと内服を継続しなければならないことや、薬による副作用(白血球減少症、肝機能障害、湿疹やかゆみなど)を生じることがあります。

放射線による治療(アイソトープ治療)
 放射性ヨード療法(アイソトープ治療)は、患者さんに放射性ヨードカプセルを飲んでいただく治療です。飲んだ放射性ヨードが甲状腺に運ばれてそこでβ線(ベータ線)という放射線を出すことにより、甲状腺ホルモン合成の場が減少します。放射性ヨ-ドは胎盤を通過して胎児に移行しますし、乳汁からも出されるので、妊産婦には使うことができません。若年者や妊娠出産の可能性のある患者さんにも避けるほうが無難と考えます。それ以外の患者さんには放射性ヨード治療の適応となります。放射性ヨ-ド療法は、最終的には甲状腺機能低下症に移行する可能性が高いことが短所となります。機能低下になれば甲状腺ホルモンの内服が必要です。しかし甲状腺ホルモンは副作用もない安価な薬で、最近では長期処方が可能になりましたので、患者さんの負担は大きくありません。治療にあたっては患者さんのためのパンフレット(RI.pdf)を参照してください。

手術による治療
 手術療法は、1)抗甲状腺剤で副作用のある患者さん、2)腫瘍の合併している患者さん、3)抗甲状腺剤の治療で非常に治り難い患者さん、4)患者が短期間での治療を希望する場合に選択されますが、2の腫瘍の合併症例以外は、放射性ヨ-ド治療も選択することが可能です。3の内科的治療で治り難いかどうかは経過をみなければ判りませんが、初診時にある程度見当がつきます。甲状腺腫が大きく血液中の甲状腺刺激抗体(甲状腺の細胞の表面にあるTSHレセプターに対する自己抗体「TRAb」で、これが甲状腺を刺激して過剰にホルモンを作ると考えられています)の高い患者さんでは治りにくいことがわかっています。内服開始後の甲状腺腫の大きさや甲状腺刺激抗体の推移、薬への反応をみて治りやすいかどうか判断することもできます。手術療法では短期に機能亢進は治りますが、入院が必要となり手術瘢痕が残ること、反回神経麻痺(声帯の動きを調節する神経を損傷することにより、声がかれたり飲食でむせたりする)や副甲状腺機能低下症(血液中のカルシウムを調節している副甲状腺ホルモンが低下して、カルシウムが低くなり手や顔面がしびれる)が生じることがあるのが短所となります。もちろん甲状腺機能が低下あるいは再発する可能性もあるので、生涯にわたり完全治癒を保証できるものではありません。上記のような短所があっても長所の恩恵が十分上まわると考えられる患者さんに手術をすすめています。

術前処置と術式の選択
 原則として、薬で血液中の甲状腺ホルモンを正常化させたあとに手術を行います。手術の1週間前より、甲状腺への血流を少なくして手術中に出血しにくくする目的で、ヨ-ド剤(ヨウ化カリウム丸)を飲んでいただきます。副作用のため薬が使えない患者さんには、ヨ-ド剤とβ遮断薬(脈拍を抑える薬)で甲状腺機能を下げるようにしています。これらの患者さんでは甲状腺ホルモン値は正常化しないうちに手術を行なうこともあります。大きな甲状腺腫を有するバセドウ病患者でかなりの出血が予想される場合は、術前に自己貯血(自分の血液を保存しておき、輸血が必要な際にそれを本人にもどすことで他人からの輸血を避けることができます)をしています。自己貯血は手術前に1,2回(1回について400ml)必要です。私は今までに1000人以上のバセドウ病患者さんの手術を担当しましたが、自己貯血による輸血のみ(自己貯血施行患者は5名前後)で他人からの輸血が必要となったことはありません。
 バセドウ病の手術についての考え方は、甲状腺全摘出術(甲状腺を全部とること)あるいは準全摘出術(甲状腺を1グラム程度を残す)で術後甲状腺機能低下を目指すか、あるいは機能正常化を目指すかの二通りがあります。術後の甲状腺機能の正常化を期待するには、左右合わせて4〜6グラム程度残す甲状腺亜全摘出術が必要ですが、残念ながら永久に甲状腺機能を正常化させる確実な方法はありません。甲状腺を多く残せば再発の可能性が高くなるし、少なく残せば機能低下の可能性が高くなるということです。尚、甲状腺癌が合併する場合、手術方法は腫瘍の位置、大きさ、リンパ節転移の有無により違ってきます。甲状腺を全部とれば一生甲状腺ホルモンを飲む必要であり、反回神経麻痺(声帯の動きを調節する神経を損傷することにより、声がかれたり飲食でむせたりする)や副甲状腺機能低下(血液中のカルシウムを調節している副甲状腺ホルモンが低下して、カルシウムが低くなり手や顔面がしびれる)という合併症の頻度が高くなります。
 先に書きましたが、甲状腺ホルモンの内服に関しては、副作用もない安価な内服薬があり、また長期処方が可能になりましたので、患者さんにとっては受け入れやすくなっているようです。ただし、合併症の頻度は外科医の技術によってかなりの違いが報告されています。再発を絶対避けたい場合もありますので、患者さんに十分な情報を提供し、手術に至った背景や患者さんの希望などを考慮して手術法を決めることが望ましいと思います。年齢・性別(女性であれば結婚前あるいは後、受胎希望)・甲状腺腫の大きさ・刺激抗体の値・腫瘍の合併・副作用の有無・眼症の有無・治療経過などから総合的に判断して術式を説明し、最終的には患者さんに選択していただくようにしています。そのような経過より、以前の施設では基本的には一律に甲状腺亜全摘術を行なってきましたが、現在は甲状腺準全摘術、あるいは全摘出術の割合が増えてきました。

バセドウ病以外の甲状腺機能亢進症
 甲状腺ホルモンの分泌が増えるためにおこる病気はバセドウ病だけではありません(ちなみに甲状腺機能亢進症の内約8割がバセドウ病)。何かの原因で甲状腺組織が破壊され、甲状腺に貯められていたホルモンが血中に一過性に漏れる無痛性甲状腺炎、高熱が出て甲状腺部位が痛む亜急性甲状腺炎、ホルモンを分泌する腫瘍ができる甲状腺機能性結節(プランマー病)などがあります。それぞれ治療方法が違うので、きちんと診断する必要があります。尚、バセドウ病以外では甲状腺機能性結節が手術の対象となります。

 
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