甲状腺眼症について
当院での甲状腺眼症に対する診療に関して
 当院は出来高払いの病院のため、ステロイドパルス療法に用いるソルメドロールという薬剤が甲状腺眼症に保険適応がない関係でステロイドパルス療法を行うことができません。また球後照射の装置もありませんので、両方を保険診療で問題なく行うことができる診療群分類包括評価(DPC)を導入している施設へご紹介させていただいております。

甲状腺眼症とは
 甲状腺眼症は、主としてバセドウ病の患者さんに合併する眼の合併症です。
 主な症状は、瞼が腫れる、瞼がつり上がる、眼が充血する、眼の奥が痛む(自発的な痛みや眼球を動かした際の痛み)、眼が突出する、物が二重に見えるなどといったものが挙げられます。
 甲状腺眼症は、その原因が完全に解明されているわけではありませんが、甲状腺に対して生じている免疫異常が眼の奥の組織に対しても影響を与えるため生じてくるという説などが知られています。眼の奥の組織は、眼球を動かす外眼筋という筋肉とその周りを取り囲む脂肪、そして目で見た情報を脳に伝える視神経から成ります。これらは頭蓋骨に囲まれているので前方を除き、周囲を固い骨の壁に囲まれている状態になっています。この眼球の納まっている部位を「眼窩」といいます。甲状腺眼症では、外眼筋や脂肪に「炎症」を起こし、その結果、外眼筋の腫大・線維化や脂肪の増生を生じることで様々な症状が出現します。

甲状腺眼症の診断
 この甲状腺眼症の診断はclinical activity score(CAS)というスコアリングシステムと眼窩MRIを中心に行うのが一般的です。
 眼窩MRIでは外眼筋の腫大の有無などの画像所見と合わせてsignal intensity ratio(SIR)やT2緩和時間といった客観的指標も用いて評価を行います。

甲状腺眼症の治療
 医学的な治療の前に1番大切なことは「禁煙」です。喫煙は甲状腺眼症の増悪因子であり、また、後述するステロイド治療の効果を落とすとも言われています。バセドウ病自体に対しても喫煙は悪影響を与えますので、治療にあたって禁煙は重要な因子となります。
 甲状腺眼症の治療において、診断された時点で炎症が生じている状態か(活動期)、炎症が生じていない状態か(非活動期)ということが重要になってきます。非活動期の甲状腺眼症に対してステロイドなどを用いた治療を行っても効果が得られないためです。
 そのため、甲状腺眼症の治療の考え方としては、
 【1】活動期の治療
 【2】非活動期の治療
 の2つに分けて考える必要があります。

【1】活動期の場合
 活動期の治療は、今まで①ステロイド治療、②球後照射(放射線治療)が中止でした。ここに2024年11月から③テッペーザという新薬が加わっています。
 その他、眼窩組織に直接ステロイド剤を注射する球後注射、眼瞼にステロイドを直接注射する方法などもあります。
 ①ステロイド治療
 内服治療とステロイドパルス療法という点滴での治療法がありますが、治療効果はステロイドパルス療法の方が優れています。そのため、基本的にはステロイドパルス療法が推奨されます。
 ステロイド治療は、炎症のコントロールを目的とした治療のため、外眼筋の線維化や脂肪の増生に対しては効果が期待できません。そのため、ステロイド治療後の自覚症状の変化は、治療前の症状に炎症がどの程度寄与しているかによって変わってきます。しかし自覚症状の改善乏しいケースでも、炎症を抑えることで炎症による後遺症(外眼筋の線維化による複視の増悪など)を防ぐことにつながります。ステロイドの副作用としては、消化器症状、不眠などの精神症状、骨粗鬆症、体重増加、高血糖、満月様顔貌、大腿骨頭壊死、重篤な肝障害などが挙げられます。これらに注意しながら、治療を進めていくこととなります。
 ②球後照射(放射線治療)
 球後照射は、外眼筋や眼窩脂肪織に放射線を照射することで、リンパ球を破壊し、治療を行う方法です。ステロイドと比較すると、治療効果の発現には時間がかかると言われています。通常、1-2ヶ月くらいの期間で評価することが多いです。この治療法は、35歳未満の方、糖尿病性網膜症や高血圧性眼底のある方は適応外となります。
 ③テッペーザ
 2024年11月より保険承認となった甲状腺眼症に対する新薬です。抗IGF-1受容体抗体で活動期の甲状腺眼症に適応があります
 ステロイド治療で効果の乏しかった脂肪増生型の甲状腺眼症にも治療効果が期待できます。
 副作用として、聴力障害、糖尿病の悪化、炎症性腸疾患の悪化などが報告されており、これらに注意しながら治療を行うこととなります。
 また海外では慢性期の甲状腺眼症(今まで非活動期として扱われていた症例)に対しても有用である可能性が報告されており、本邦における今後の保険適応の拡大が期待されています。

【2】非活動期の場合
 炎症がない場合の治療は、基本的には症状を緩和する目的で点眼薬を使用したりする保存的治療や、線維化や脂肪増生による症状が著しく強い場合に行う眼科的な手術などが治療法として挙げられます。
 なお、前述のように将来的にテッペーザによる治療が非活動期(慢性期)の選択肢として加わってくる可能性がありますが、現時点でテッペーザの保険適応は活動期の甲状腺眼症に限定されておりますので非活動期(慢性期)の甲状腺眼症には使用できません。

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